基軸能力の概要−思考


 言葉的な意味で言うと、意志・感覚・感情・直観などと区別される人間の知的作用の総称。物事の表象を分析して整理し、あるいはこれを結合して新たな表象を得ること。狭義には概念・判断・推理の作用による合理的・抽象的な形式の把握をさす言葉です。



 残念ながら、この分類をルール化している物はあまりありません。一部をデータで表現している物もありますが、それは能動的なものではなく受動的な分類に入る為、厳密に分類するのであれば表現している事にはなりません。

意志
 言葉的な意味は、物事をなすにあたっての積極的なこころざし。
 ある目的を実現するために自発的で意識的な行動を生起させる内的意欲。道徳的価値評価の原因ともなる。

 『意志の強さ』と言う項目でデータ表現される事もありますが、それはごく一部のシステムで採用されているだけで、ほとんどのシステムではこの能力はデータ化されていません。その為、キャラクターの意思性は個性を装飾するに留まっているのが現状です。
 ちなみに、厳密に言えば精神力と言う能力と同一視されている項目でもあり、ゲームマスターは精神力を意志の強さに置き換えて何らかの判定を望むケースが少なからず存在します。
 その場合、提供しているシステムがどういう意味合いで精神力と言う能力を分類しているかによりますが、その意味合いをしっかり説明している物は少なく、判断はユーザーに委ねられるケースが多いのが現状です。

 この能力をデータ化しようとすると、それなりに難しい所があります。結論から言うと、システムのデザインによって変化する。という事になります。
 例えば、魔法に対する抵抗で、個人の意志の強さによってなんとななるか?と言う部分について、何とかなるとデザインするか、なんともならないとデザインするかはデザイナー次第になります。
 ちなみに―――――現実世界にある呪術でいえば、意志の強さで対抗できる物ではありません。出来ると思いがちですが、毒が体の中に流れた場合、意志の強さで毒の効果を無効に出来ないのと同じ理屈です。もちろん呪術が意識に直接影響を与える物であれば意思の強さで対抗できますが、その系統の呪術は本人に悟られてはならない、悟られた段階で効果を失うという前提が存在するのです。恋の呪いなどがその代表例でしょう。
 誘惑などの呪術はどうかというと、あれは意志に作用するのではなく、人の本能(行為・反応)に干渉する呪術であって、意志に直接働きかける呪術ではありません。よって、意志で対抗する事は出来ないとされます。
 では本当に意志でどうにもならないかと言うと、呪術に対抗する事は出来ませんが、呪術によって影響を受けた肉体部分の反応を抑える事は可能です。それには肉体を意志の力でねじ伏せる必要がありますが―――。
 以上は、リアリティにこだわった場合の例です。これはあくまで用意される世界観と設定によって変化します。このような仕組みを説明してあるシステムはありませんので(私は知らないです)、そこまで考えてデザインされているかどうかは不明です。

 意志による抵抗例としてあげました。ゲームとして数値化する以上は実際の仕組みと整合性を持たせて共生させるのがデザイナーの仕事になります。これは、システムを構築する為の骨組みである為(この考察は基礎部分)、これを曖昧に作っているシステムは短命になってきます。

 話は戻しますが、この意志を数値化するのは非常に面白い試みになります。意志そのものは前述のように、PLの意志が強く影響を受け、PCの意志はそこに存在する事は稀です。強く意識しすぎるとPCとPLの方向性に差が生じ、ストレスを感じてしまうという欠点があるためか、無意識的にPL=PCと言う構図になるようです。
 これを意思力と数値化することで判定化をはかり、半強制的に分化させてしまうのです。
 なぜ面白いかと言うと、元々TRPGは登場人物になりきって遊ぶゲームではありません。PCはPLの思い通りになるおもちゃではなく、卓内で共有された主要登場人物になりますので、このように判定化させることによって、より客観性を図る事が可能となります。もちろん、PCが自分の思い通りにならないと詰まらないと言う人には向きませんが―――。
感覚
 言葉的な意味は、目・耳・鼻・皮膚・舌などが身体の内外から受けた刺激を感じ取る働き。また、感じ取った色・音・におい・温度など。哲学的には、感覚は知覚の構成分であり、まだ意味づけられていないものとして知覚とは区別される。感じとること。また、感じとる心の働き。感受性。感じ方。
 あまりこの能力をデータ的に表現しているシステムは少なく、また表現しているシステムでも、基軸能力として数値化しているものもあれば、特徴的役割を持たせているシステムの二系統あります。

 この能力が表現されているシステムとされていないシステムでは遊び方が大きく変わってしまう為、デザインする側(システム提供側)としては強く意識しなければならない項目の一つともいえます。
 まず、意識における感知との違いは、感覚の鋭さ・雰囲気を読み取る能力という事です。感覚が鋭ければ鋭いほど、感知における判定が優位に働きます。雰囲気を読み取る能力が高ければ高いほど、危険に対する回避能力が優れていると言えます。
 感知や知覚と同一視され、同一項目で表現されたり、同一視されがちですが、この能力はその二つとは明らかに別の能力です。

 この能力をゲーム的に表現するのであれば、肉体のポテンシャルとしての最大値および基本値として表現する方法が一つ。ガープスのように突出した超感覚として表現する方法があります。
 「世界を救うのが目的の超感覚アクションゲーム」と言ったノリの、リアリズムを追求しないアニメ的なデザインを行うつもりであれば、この能力は表現しない方が無難です。もちろん、そういったシステムは地道な探索や追跡、推理といった方面には向かないと言えます。
 といいますか、追跡・探索、推理といった地道な作業とリアリズムは切り離せない為、両立する事は無理と思ってください。どうしてもやりたいのであれば、演出とその場のノリで処理するしかありません。少なくとも、ゲーム的に表現すると、システムのステータスバランスが偏るだけになり、能力的にも優先度が低くなるので止めた方が無難です。

 個人的な意見としては、キャラクター作成時にいくつか種類分けした感覚を用意し、それぞれポイントを振り分けステータスの最大値と基本値を算出する方向で行い、振り分けられた感覚は感覚に関する判定の基準値とする。と言う形が良いと考えます。
 最大値を設ける意図としては、突出した能力―――つまり、ある系統に対して恐ろしく強力なキャラクターを作られる事への抑制効果。
 ポイントを振り分ける事に対しての、役割傾向の早期把握。という狙いがあるからです。

 以上がPL側から選択・変化させる事の出来るアクションです。その他の方法としては、GMからのリアクションが主になると思われます。
感情
 言葉的な意味は、喜んだり悲しんだりする、心の動き。気持ち。気分。
 ある状態や対象に対する主観的な価値づけ。「美しい」「感じが悪い」など対象に関するものと、「快い」「不満だ」など主体自身に関するものがある。また、一時的なものを情動、持続的なものを気分と呼び分ける場合もある。

 特徴としてルール化されているが、そこで止まってシステムとして機能していないシステムが多く、システムとして機能を持っているのはガープスくらいでしょう(他にもあるかもしれませんが)。ナイト・ウィザード、S=F、ダブルクロスなどは前者に分類され、その表現はプレイヤーに委ねられています。

 ルール化されていようがいまいが、システム的な縛りがない場合は、設定を守らなくても「そういうルールはない」と言って一蹴でき、「だってこいつこういうキャラだもん」と言ってセッションを迷走させる行為に対してなんら効果をもちえていないと言う欠点があり、プレイヤー個人の資質に委ねられている状態にあります。
 だからと言って、システム的に縛りを設ければよいと言うわけではなく、上記のような行動に対してどのように歯止めをかけ、救済するかを考えてシステムを整備するのがデザイナーに要求される事項の一つです。これに失敗すると、「Aという設定だからBしなければおかしい」といった感じの縛りが発生してしまいます。「なりきりタイプ(PC=PL)」のシステムを提供しているTRPGではそれでもかまいませんが、そうでないシステム(PL≠PC)では、PLの目的とPCの目的は必ずしも「=」ではないという事を、デザイナーおよびGMは覚えて注意しておかなければならないでしょう。

 実際にゲームではどう表現されているかというと、システム的に機能を持たせている物は私はガープスしか知りませんのでガープスのシステムを紹介する事になります。感情に対してユーザーは意志判定という判定を行う事が出来ます。失敗すればその感情どおりに演出を行い、成功すればその感情と違った行動を演出できます。判定を行わない場合は基本的には失敗扱いでしょうが、失敗扱いするというルールはありません。最終評価に影響を与えますが、それが他のPLやGMに対して協力的な好意であれば差し引いてもプラスの方向に評価されます。ガープスを誤解する人の中に、これを悪い方向にしか捕らえない人が少なからずいますが、それは大きな間違いだとここで言っておきます。
 設定のみルール化されて、システム的に機能を持たせてない物に関しては、口プロレスに発展します。物によってはシステムを複雑化しないためにルール化していない事もあります。それならば最初から用意しなければと思う人もいますが、キャラクターを作る上で感情設定をそういうもの無しに作れない人に対しての救済ルールとして用意している物もあれば、よりキャラクターを演出させる為のみに用意している物もあります。そのために用意した物であるのため、システムとして機能を持たせないという選択をしたと言えます。

 この項目の必要性を考えると、ルール化する必要はあると判断されます。理由としては「こいつ、こういうキャラだから」という理由で、周りを困らせるプレイをしたり、設定に縛られて思い通りにプレイできない場合の防止と救済が必要と判断されるからです。またその際、ガープスのような特徴としてデータ化する必要は無いと考えられ、さらに言えばダブルクロスを除くFEARゲーのように、形だけの特徴化も必要ないと判断されます。(必要ならハンドアウトを使用すればよい)
項目として数値化する必要はなく、数値化されている能力を基準にした対抗判定のルールを添付すればよいと思われます。判定に成功した場合「今はなぜかそういう気分だった」として、本来の性格とは反した行動が可能になると言う事です。
直観
 言葉的な意味は、推理を用いず、直接に対象を捉えること。
 一般には感性的知覚をいうが、直接的に全体および本質をつかむ認識能力としてプラトンの「イデアの直観」以来、哲学上さまざまな形で高い位置が与えられてきた項目です。

 この項目はそのまま知覚で表現してもかまわないと思われます。能動的知覚と感覚的知覚を別物として表現したい場合のみ、分類すればよいかと判断されます。

 では分類した場合です。能力値として数値化する意味合いは薄く、類似する能力値を参照する方が好ましいでしょう。
数値化
まず、能動的という部分では無く感覚的部分と言う所に着目です。何らかの事柄に気がつくかどうかの判定が必要になった場合、PLに判定をしてもらうのとGMがPCの能力値を参照して判定する場合があります。

 PLに判定をしてもらう場合、判定のお願いの仕方次第でPLにそこに何があるのかが結果の如何に関わらず伝わり、場合によってはセッション進行の妨げになります。そういう場合は、フェイクで判定をしてもらったりすれば回避されますが、あくまでこの対処法はローカル環境といった、身内でのみ通用してコンベンションなどではあまり通用しない方法です。

 GMに判定をしてもらう場合、判定が何なのか教える必要もなく、また結果値も伝える必要もありません。むしろ、教えない・伝えない方がPLに適度な緊張感を与えることでしょう。しかし、この方法はPCの数値を把握もしくは簡易的に参照できる環境が必要であり、この形式をとっているガープスでもローカル環境内ではGMではなくPLが判定を行うケースも多いという難点があります。実際GMがめんどくさがっていると言うポテンシャルの面での問題点となります。実際、PCごとに数値を持っていると、最大でPCの数の判定が必要になるという点からも、忌諱されているかもしれません。
 以上の様に、それぞれには利点及び欠点が存在し、それぞれの欠点はそれなりに無視できないものです。

 これらの問題点を改善・工夫するのがシステムデザイナーの仕事であり、腕の見せ所の一つといえます。
 一つの提案として、直感を個々のPCに対して数値化するのではなく、全体を通して一つの数値を導き出し、その数値を基準にGMが判定を行うのと、PCの代表を決め、そのキャラクターの数値を参照する、という考えがあります。サンプルとしては
1.知覚もしくはそれに準じる数値の平均値
2.知覚もしくはそれに準じる数値の総合値
3.PTの最大レベル(SWでは冒険者レベル、アリアンロッドではPCのレベル)
4.PT内での盗賊・エージェント・エクスプローラーの役割を持つキャラクターの能力値
5.最も高い直感に順ずる能力値を参照基準値とする。
6.固定値を決定する。
以上です。
これらのサンプルは、マスタリングレベルではすでに実現している項目です。しかし、システムとして組み込まれているものはありません。
知覚もしくはそれに準じる数値の平均値
人数が多ければ多いほど成功し易いです。「下手な鉄砲数打ちゃ当たる」というやつの延長の考えです。しかし、分散した場合や個別で行う処理に対して、再計算が必要になる欠点があります。固定にするのも手ですが、それはあまりどうかと思われます。よって、システムデザインの方向性に依存されます。
知覚もしくはそれに準じる数値の総合値
平均値なので人数はあまり関係ありません。分散したり個別に処理する場合はあまり意味を持ちません。再計算も必要になるので、1の項目同様、デザインの方向性に依存されます。
PTの最大レベル(SWでは冒険者レベル、アリアンロッドではPCのレベル)
最も安定している処置かもしれませんが、やはり分散や個別に対して対処を講じる必要があります。デザインによっては、PC間のレベル差は能力値の差に比べて小さい為、分散や個別で行う場合でも最大レベルを使用してもかまわないかもしれません。
PT内での盗賊・エージェント・エクスプローラーの役割を持つキャラクターの能力値
まず、該当するキャラクターが居ることが前提になります。該当しない場合は、それに代わるキャラクターを事前に指定することで回避できますが、これもまた分散や個別には向かない欠点を持っています。
最も高い直感に順ずる能力値を参照基準値とする。
最も高い能力値を持つキャラクターの値を元に、直感に関わる全ての判定の基準値とするというものです。 基準である為、分散や個別に関わらずその基準値を元に修正などを加えて判定を行うというものです。 この方法の場合、システムのデザイン次第で、参照する能力値が高い人物が一人居れば、他のその能力を伸ばす必要がなくなるという欠点が存在します。上記の欠点が解消されましたが、別の欠点が浮上することとなります。
固定値を決定する。
1−5を考え、四の五の言わずに、参照する数値の平均値で固定値を決めてしまい、分散しようが個別になろうが、その固定値を基準に判定を行うというものです。GMとしても、場面が変更しても参照する数値は一つしかないので楽です。
以上の事から、PLが判定を行うのではなくGMが判定を行い、なおかつ参照値は事前に算出しておき、それを基準として判定を行う。という手法が好ましいと思われます。

もちろん、デザイナー自身が何らかの意図があり、PLに判定をさせることが必要だと感じたのであればその通りにデザインするのが一番です。しかし、何もルール化しないというのが好まれないと思われます。上記のサンプルでいうなら、ルールとしても三行程度で済む話であり、システムとして重くなるから嫌という理由にはなりません。
ルール化した結果、GMの想定外の結果になる―――というパターンは考えられます。従来の即品システムにある「なぁなぁの演出」で処理する方法は、GMにとってシナリオ通りに展開させるのには楽でしょう。しかし、その思考はGMの吟遊詩人化を促進する結果となり、中の良い身内で遊ぶ分では通用しても、コンベンションなどでは相手の格好や趣向が合わなければただの地雷でしかありません。しかしGMが判定を行うルールであれば、「判定を行った結果気が付いた」という条件が定義され、「判定に失敗した場合もある」という事をPLに感じさせることが出来ます。結果として同じでも、相手に与える印象はまるで違うわけです。また、PLに判定させる場合でも、その達成値を伝えなければ同様の効果があります。以上のことも考えれば、三行程度の記載を渋り、判定を行わないとするよりは、三行程度を記載し、判定を行う方向でやる方が得られる快感は高いと思われます。
これは感覚的直感だけでなく、能動的直感に対しても言えることです。

以上の事から、デザイナーはルール化することでユーザーに与えられる快感もあり、逆もまた叱りということを十分考慮しながら、システムを構築することを要求されているという事です。